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診療科呼吸器外科

更新日:

安全で優しい医療の実現のために

 当科では、複数の診療科と連携し安全で高度な医療を提供しています。また、患者さんに応じた「やさしい」医療の提供を心がけています。
 特に、肺がん・縦隔腫瘍など悪性腫瘍の治療に対しては、ロボット支援手術などの新しい治療を積極的に行っています。

*当院は地域がん診療連携拠点病院(2014年8月厚生労働省指定)、呼吸器外科領域ダビンチ手術指導施設メンターサイト(2019年9月インテュイティブサージカル社指定)です。

呼吸器外科部長
池田 直樹

対応疾患

疾患名 診療内容
肺悪性腫瘍(肺がん、転移性肺がん) ロボット支援手術、拡大手術
縦隔腫瘍(胸腺腫、胸腺がんなど) ロボット支援手術、拡大手術
重症筋無力症 ロボット支援手術、拡大手術(神経内科連携)
気胸・気腫性肺疾患 胸腔鏡手術、気管支塞栓術など
膿胸・感染性肺疾患(アスペルギルス症など含む) 胸腔鏡手術、空洞切開術、胸郭成形術など
気管・気管支狭窄(悪性、良性) 硬性気管支鏡、ステント留置(金属、シリコン)

特色・強み

 当科は肺がん・縦隔腫瘍などの悪性疾患だけでなく、気胸・肺気腫、膿胸・肺感染症など様々な呼吸器疾患に対応します。

 24時間対応の救急医療が整備された「総合医療センター」として、持病のある患者さんであっても安全に医療を受けていただけるように、様々な診療科と綿密に連携をしています。

 当科では、手術支援ロボット「ダビンチXiサージカルシステム」を用いて呼吸器外科手術を行っています。ロボット支援肺がん・縦隔腫瘍手術(保険承認)を2018年3月から開始し、過去6年間に約520名以上の患者さんにダビンチ手術を受けていただきました。
 ダビンチXi サージカルシステムを使用することで、肺がん・縦隔腫瘍の患者さんの身体に負担が少なく、さらに精密な手術を提供できればと考えています。

実績

2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
肺腫瘍 計 113
91 82 87 98
 肺がん 92 81 70 74 84
 転移性腫瘍 14 7 11 12 12
 良性肺腫瘍 0 2 1
0 1
 他 7 1 0 1 1
縦隔腫瘍 計 20 9 12 11 14
 胸腺腫 7 5 5 2 3
 胸腺がん 0
0
0 1 0
 他 13 4 7 8 11
腫瘍手術件数 計 133 100 94 98 112
気胸・気腫性 44 26 39 30 36
感染性 12 15 5 11 18
23 20 12 3 20
呼吸器外科手術 計 212 161 150 142 186
ダビンチ手術 計 111 87 75 79 72
 肺悪性腫瘍 92
79 64 68 59
 縦隔腫瘍 19 8 11 11
13

肺がんの外科治療について:手術を受けられる患者さんへ

1.はじめに

 以前、患者さんにがんと「告知」すべきかどうか議論がありました。 しかし現在では、ほぼ全ての患者さんにわかっている病状をきちんと伝えるようになりました。 そして、可能な治療選択肢と勧められる治療を説明し、患者さんの十分なご納得を得てから治療がなされるようになりました。
 その理由はひとつではありませんが、結果に対して責任を負うことが難しいことも理由のひとつと考えられます。 つまり、過失・ミス・誤り・間違いなどがなく、予定された治療を完全に実施したとしても、必ずしも予想通りの良い結果が得られること(もちろんそうなるよう全力を尽くしているのですが)を治療前にお約束することができない、というのががん治療の限界、特に「カラダにメスをいれる」外科治療の限界だからです。

 ですから尚更、患者さんの病状やお気持ちなどをより丁寧に考え、患者さんに適切な治療選択をしていただけるよう留意しています。

2.肺がんの病状

肺がんの病状は、「腫瘍の状態」「肺機能の状態」「全身の状態」の3つで構成されます。

2-1.腫瘍の状態

 肺がんが疑われて病院に受診される患者さんは、まず「胸部X線検査」と「胸部CT検査」を受けていただくことになります。 その結果、普通存在しないデキモノ=腫瘍の存在する部位と大きさ、周囲の臓器(心臓や大動脈、食道など)との位置関係が明らかになります(こうした情報をT因子といい、T1aからT4まで分類して表現されます)。
  また、同時に胸部CT検査などにより、リンパ節が腫れているか、腫れているとしたらそのリンパ節の場所も明らかになります(こうした情報をN因子といい、N0からN3まで分類して表現されます)。
 更に「頭部MRI検査」や「全身PET検査」の結果、頭部や全身にがんが拡がっているかが判定されます(こうした情報をM因子といいM0からM1bまで分類して表現されます)。
 次に、こうした画像検査に加えて組織検査が行われます。 つまり「胸部CT検査」で明らかになった腫瘍に、気管支鏡で観察しながら腫瘍を小さく切除して、顕微鏡でその細胞形態でその腫瘍が肺がんかどうかを確定診断します。

 こうした検査結果をすべて合わせて、その腫瘍が肺がんなのか、肺がんだとしたらどのくらいの拡がりがあるかを国際基準(臨床病期、ステージ)に基づき、ふさわしい治療を検討します。

2-2.肺機能の状態

 肺がんの治療を考えていく上で、肺機能、いわゆる「肺活量」などの状態は大切です。 特に外科治療では肺を切除することになるので、喫煙されていた患者さんでは「肺気腫」が進行していないかどうか、また他の病気の影響で肺機能が悪化していないかどうかなどを「呼吸機能検査」で十分見極める必要があります。


 個々の状況によっては、術後に在宅酸素療法が必要になる場合もあります。

2-3.全身の状態

 過去の病気や現在患っている病気、内服しているお薬があるかも大切な情報です。受診に際しては、おくすり手帳のご持参をお願いします。 また、外科治療では肺を切除することになるので、肺に直結している心臓の状態は大切です。
 また、脳梗塞の既往がある方で抗凝固・血小板薬(血が「さらさら」になる薬)を内服されていると手術に影響し、糖尿病などでもお薬の調整が必要です。

  しかし、日常生活を支障なく過ごすことができていれば、あまり問題にはなりません。

3.肺がんの治療選択と手術の実際:入院から退院まで

 上で述べたような診断を経て、肺がんの治療を選択していきます。
選択肢としては、外科治療、抗がん剤、放射線療法、更にその組み合わせになります。
 肺がんが治癒するためには、外科治療、つまり手術で肺がんが切除されることが必要と現時点では考えられているので、切除が可能な場合、第一に勧められる選択は手術でがんが存在する部位の肺を切除することになります。

3-1.手術が勧められる病状

手術が勧められる病状は、大まかに表現すると上で述べた2-1.から2-3の3つについて、

  • 「腫瘍の状態」は、がんがある程度限局していること
  • 「肺機能の状態」は、肺機能検査で一定の呼吸機能が維持されていること
  • 「全身の状態」は、日常生活を支障なく過ごすことができていること

こうした条件を満たしていれば、手術でがんが存在する部位の肺を切除することが第一に勧められます。

3-2.手術と術後経過の実際:ドコをドノくらい切って、ナニがドウなるのか?

(0)麻酔
 専任の麻酔科医による全身麻酔が実施されます。

(1)皮膚切開
 以前は背中を約40cm程度切開していましたが、現在では当院ではロボット手術を実施しております。この結果、鍵穴程度の切開が4箇所(図の1から4)と約3.5cmの皮膚切開1箇所(図のA)で済むようになりました。

(2)肺切除
 肺は、左右の胸腔にひとつずつ入っており、右は上・中・下の3肺葉、左は上・下の2肺葉に分かれており、さらに肺葉は肺区域という小さな単位に分かれます。

肺がん手術のキホン1:肺葉ごと切除する

 手術でがんを切除する際には、腫瘍だけを取り除くのではなく、がんの存在する部位の肺葉ごと(つまり右上葉、右中葉、右下葉、左上葉、左下葉のいずれか)切除する「肺葉切除」が、肺がん手術の現在のキホンです(標準手術と言われます)。
 もちろん、がんが大きければ複数の肺葉も切除せざるを得ない場合もありますし(最大は片肺全摘です)、逆にがんが極めて小さい場合は肺葉よりも小さな範囲で切除する「区域切除」や「部分切除」もありえます(縮小手術と言われます)。
 また、隣接臓器(心臓や大動脈、食道、肋骨など)に浸潤していれば、一緒に切除する「合併切除」を行う場合もありますし、気管支に発生したがんでは、気管支を切離してもう一度つなぎ直す「気管支形成術」を行う場合もあります。 最終的にはがんの拡がりと身体的負担とのバランスで決定されます。

 いずれにせよ、心臓とつながっている太い(径1-3cm)肺血管を切離しなければならないため、肺切除は一般的に難度の高い手術とされています。

肺がん手術のキホン2:完全に取り残しなくがんを切除する

 もう一つの肺がん手術のキホンは、決して取り残しなく「完全に取り残しなくがんを切除する」ことが必須であることです。このことを完全切除といいます。 ですから、がんが胸腔中に「飛び散って」いる場合(胸膜播種といいます)など、がんが残らないように切除すると切除量が多すぎて、術後の日常生活が維持できないことが予想できる場合もあります。

 こうした場合は手術を中止せざるを得ないということになりますが、中止した手術に続いて早期にがん薬物療法や放射線療法が検討されます。

(3)リンパ節郭清
 気管支の周囲にはリンパ節があり、肺がんはリンパ節にしばしば転移することが知られています。ですから、リンパ節がひどく腫れていなくても、肺切除と同時にリンパ節を切除することが標準です。
 リンパ節切除は、リンパ節だけを選択的に摘出はできないため、リンパ節が存在する領域の脂肪組織ごと根こそぎ摘出するため、がん手術におけるリンパ節切除は「リンパ節郭清」と表現されます。
 なお、この操作により発生する特別の障害はないと考えられています。

(4)手術終了へ
 手術終了に際して、手術操作による出血が完全に止まっていること、肺の切離面や閉鎖した気管支断端からの空気漏れがないことを十分確認します。
 そして、胸腔内にドレーン(残存肺葉をしっかり膨張させ、胸腔内に排液が貯留しないように真空ポンプに接続して陰圧を保つための管)を留置して手術は終了し、麻酔から覚醒させます。
 個々の状況によって差がありますが、標準的な手術時間は2-4時間程度で、出血量は200ml以下、通常輸血は必要とならないことが大半です。

(5)術後経過
 術直後はICU(集中治療室)に入室していただきます。 手術直後は酸素マスク、胸腔ドレーン、尿管、点滴など多くの管があるため、あまり身動き取れません。
 翌日の朝、キズを確認し胸部X線検査で経過が良いことが確認された後、ICUから退室し一般病棟に移動となります。
 昼から食事が再開し、ベッドから離床して歩いていただきます。 後で述べる術後合併症が発症しなければ、胸腔ドレーンも数日で抜去され、退院していただきます(術後2週間以内に退院される方が大半です)。

 術後、動いた時の息苦しさと創部の疼痛が問題になることがありますが、個人差もあり、「日にちクスリ」で減少することが大半です。また、痛み止めの内服や点滴も積極的に行っています。  疼痛を感じることが無い状態で痰をしっかり喀出するようリハビリテーション等を行い、術後肺炎を予防するよう努めています。

4.肺がん手術のリスク

手術死亡率と術後合併症について説明します。

4-1.手術死亡率

 上で述べたように、肺切除は難度の高い手術、つまり危険=リスクの高い手術です。手術死亡率(手術が原因で亡くなられた方の比率)は、本邦では0.1-0.5%とされ、その頻度は比較的稀と考えられます。
 また、切除された肺は再生されないため、切除すればするほど術後肺機能の低下し、更に上で述べた形成術などの大きな手術をすれば、後で述べる術後合併症の発症リスクは高くなります。
 そのため、当院では他の診療科とも密に連携をとり、緊急事態に備えています。

4-2.術後合併症

 術後合併症とは、手術は正しく行われたけれども、術後に治療を要する病態悪化のことです。
結果的に再手術を要する場合もあります。代表的なものをいくつか説明します。

(1)術後出血
 手術終了に際して、操作による出血が完全に止まっていることを十分確認しドレーンで胸腔内を「ポンプ」で引くのですが、その結果、完全に止まっていた出血が術後に再開することがあり、こうした合併症を「術後出血」と表現します。
 このような場合、少量であれば経過観察や輸血などで間に合いますが、出血量が多い場合には、再手術、つまり全身麻酔下でキズをもう一度開いて、出血箇所を止血する手術を行うことがあります。

(2)術後エアリークの遷延、膿胸
 手術終了に際して、肺の切離面や閉鎖した気管支断端からの空気漏れがないことを十分確認しドレーンで胸腔内を「ポンプ」で引くのですが、その結果、完全に止まっていた肺切離面や気管支断端からの空気漏れが術後に再開することがあり、こうした合併症を「術後エアリークの遷延」と表現します。
 このような空気漏れを放置しておくと胸腔内に感染が発生し、膿が胸腔内にたまる「膿胸」という状態になります。膿胸は致命的な敗血症へ進行するリスクがあるため、そうならないように胸腔ドレーンを入れ替えや再手術、つまり全身麻酔下でキズをもう一度開いて、空気が漏れている箇所を閉鎖する手術を行うことがあります。

(3)その他
 不整脈、乳び胸、神経麻痺、食道損傷、肺梗塞、脳卒中、心筋梗塞、術後せん妄など様々な合併症の報告がありますが、発生頻度はそれほど高くありません。

5.肺がん手術を受けたあとの過ごし方

退院後の生活について説明します。

5-1.退院してしばらくの間に注意していただくこと

 上で述べたように、最近の入院期間は2週間以内と短くなっています。ですから退院したあといきなり元の生活のペースに戻すのはお勧めできません。
 肺を切除した結果、呼吸する量も低下しただけでなく、心臓にも負担は及んでいます。加えて入院期間に安静にしていたため、足腰も弱くなっています。

 だからといって、退院しても自宅内で安静を継続するのは、回復に更に時間がかかるだけで全く勧められません。
 目安としては「元の生活の6割程度のペース」から、カラダを慣らすように再開されると、うまくいく方が多いようです。大切なのは、自分のカラダに起こった変化をよく理解して、ご自身のカラダをしっかり感じていただくことかと考えます。

5-2.病理診断の結果:最終的な肺がんの進行度が決定します

 切除された肺とリンパ節は、「病理検査」が実施されます。 病理検査とは、顕微鏡でその形態が評価され、その腫瘍が肺がんかどうか、リンパ節に転移があるかどうかが専任の病理医により確定診断されます。

 術後数週かけて確定されるその結果に基づき最終的な肺がんの進行状態を決定し(病理病期)、追加の抗がん剤治療を要するかどうか判定されます。 また、最近では再発時の治療選択の情報を得ておくためにも、外来での保険診療として、切除されたがん細胞の遺伝子検査(保険適応)を追加して行います。

5-3.5年間通院して検査を受けていただきます

 がんが厄介なのは、再発をきたすことです。完全にがんを切除してもまた出てくる「再発」があり、再発を発見するために、外来通院し検査を受けていただきます。
 「胸部CT検査」は年1-2回程度、がんが進行していた場合は「頭部MRI検査」を年1回程度受けていただきます(がんの進行度によっても異なります)。

 こうした術後再発は、術前から起こっていた微小な転移が術後に顕在化したと考えられますので、一般的に再発なく5年過ぎれば無事治癒されたということになり、通院は終了となります。

関連リンク

地域の医療関係者の方へ

 2022年9月からダビンチXiサージカルシステムが2台体制となり、 地域の皆様へ更なる貢献をしていきたいと考えております。
 ロボット支援手術にとどまらず、個々の患者さんにとってどのような医療、治療が適切なのか、地域の先生方とのコミュニケーションの中でより良い選択ができるよう、病院全体で努めております。
 少しでも気になることがありましたら、遠慮なくご相談、ご紹介ください。

 今後ともよろしくお願いいたします。

地域の患者さんへ

 まず、地域でのがん検診や会社健診を積極的に受検してください。そして要精密検査となった場合は、受診をご検討ください(この場合の当院への受診は紹介状不要です)。
 ちょっと怖くなって受診をためらわれることもあるかと思います。どのがんでもそうですが、特に肺がんの場合は、治療の遅れを取り返すことが難しいため、早めの受診を推奨します。皆で良い結果が出るように対応していきましょう。

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