前立腺がん
前立腺がんについて
前立腺がんは、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生します。早期に発見すれば治癒することが可能です。また、多くの場合比較的ゆっくり進行します。しかし前立腺がんの予後(生死にかかわるか、その後の病状経過)は、がんの広がりと「分化度」で大きく異なります(下図)。
分化度とは
がん組織を顕微鏡で診断(病理診断)する際に、同じがん細胞であっても元の形をより残しているタイプなのか、ほとんど残っていないタイプなのか、その程度を分類します。その程度を分化度といい、前者は高分化型、後者を低分化型、その中間を中分化型と表現されます。
前立腺がんの5年生存率(5年後に生存されている確率)は、下図のように、
- がんの広がりが限局しており、がん細胞が高分化型であれば、100%(10年生存率75.4%)ですが
- がんが他臓器まで転移しており、がん細胞が低分化型であれば、22.8%(10年生存率6.5%)となります。
前立腺がんの予後
5年生存率(%) | 10年生存率(%) | |||||
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高分化 | 中分化 | 低分化 | 高分化 | 中分化 | 低分化 | |
限局性 | 100.0 | 84.1 | 74.3 | 75.4 | 69.8 | 66.3 |
局所浸潤 | 93.0 | 70.0 | 38.7 | 79.8 | 52.8 | 14.8 |
遠隔転移 | 78.7 | 53.9 | 22.8 | 67.6 | 43.5 | 6.5 |
- (前立腺癌のすべて 第1版:前立腺癌の予後より改変)
症状とがんの進行
早期の前立腺がんは、多くの場合自覚症状がありません。しかし、尿が出にくい、排尿の回数が多いなどの症状が出ることもあります。進行すると、上記のような排尿の症状に加えて、血尿や、腰痛などの骨への転移による痛みが現れることがあります。
また、近くのリンパ節や骨に転移することが多いですが、肺、肝臓などに転移することもあります。
診断方法
採血検査と直腸診(外来)
まず採血検査と直腸診が行われます。PSA検査は、血液中のPSAと呼ばれる物質の濃度を測定する、前立腺がんを早期発見するための最も有用な検査です。がんや炎症により前立腺組織が壊れると、PSAが血液中に漏れ出し増加します。血液検査でPSA値を調べることによって前立腺がんの可能性を調べます。
PSA値とがん検出率を示します。
PSA値とがん検出率
PSA(ng/ml) | 陽性率(%) |
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4.0-10.0 | 20~30 |
10.0-20.0 | 40~50 |
20.0< | 80~ |
直腸診は診察室で行う検査で、おしりから指先で前立腺の硬さを触れて調べる検査です。
また、同じようにおしりからエコーを挿入して、前立腺の内部の性状を調べる経直腸エコー検査も実施します。
また、がんの広がりや全身への転移の有無は、CTやMRIなどの画像検査で調べます。
前立腺生検(1泊2日の入院)
上に述べた検査で前立腺がんが疑われる場合には、前立腺生検を行います。当院では、前立腺生検は安全のために1泊2日の入院となります。
また、手術室で行い、腰椎麻酔のよる疼痛緩和に努めております。
前立腺がんかどうか、その検査の結果は、外来で説明しています。
堺市立総合医療センターで前立腺生検
1泊2日で施行 | 検査当日の朝に入院し、午後に手術室で検査を行う。 (検査日の夕より食事、歩行可能) 翌日に尿道カテーテルを抜去し、退院。 |
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麻酔方法 | 腰椎麻酔 |
生検方法 | 軽直腸的 |
生検本数 | 12本 |
治療方法
治療法は標準治療を中心に、体の状態や年齢、患者さんの希望なども含めて検討し、担当医とともに決めていきます。
前立腺がんの主な治療法は、監視療法、手術(外科治療)、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法です。
複数の治療法が選択可能な場合があります。
PSA値、腫瘍の悪性度、リスク分類、年齢、期待余命(これから先、どのくらい生きることができるかという見通し)、患者さんの治療に対する考え方などをもとに治療法を選択していきます。
前立腺がんの治療の種類
無治療経過観察 | 定期的なPSA検査 | |
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局所的治療 |
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全身的治療 |
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治療法を決める重要な要素
- がんの病期(進展度)・悪性度
- 患者さんの年齢
- 全身状態、合併症の有無
- 患者さんの希望
各治療の合併症
治療法 | 定期的なPSA検査 |
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手術 |
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放射線療法 |
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内分泌療法 (ホルモン療法) |
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前立腺全摘除術の方法
前立腺と精嚢を摘出し、膀胱と尿道を縫合する手術
特長 |
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適応(目安) |
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主な合併症 |
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外科治療:ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術
ロボット支援手術とは?
ロボット支援手術といってもロボットが独自に手術を行うわけではありません。”ロボット支援”という名の通り、「ダビンチ」という手術用ロボットが腹腔鏡手術の支援をする優秀なデバイス(機器)として機能します。
アームのスリム化を実現した機種
当院が採用した新しい「da VinciXi SURGICAL SYSTEM」は、旧型と比較しロボットアームがスリム化し、特殊な間接機構を有しており、今まで問題となっていたアーム同士の干渉が劇的に減少しています。同機種は大阪でも初の導入となります。
当院では2016年2月に堺市内で初めて手術支援ロボット・ダビンチXiサージカルシステムを導入し、2016年4月よりロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術を開始しています。
ロボット支援手術のプロセス
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術者がロボット操作用の台から、3Dモニターを見ながら遠隔操作で装置を動かします。
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術者の手の羽後行きがロボットに伝わり、手術器具が連動して手術を行います。
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サポートする医師や看護師は、示すモニターを見ながら手術を行います。
ロボット手術のメリット
回復が早い
- 受注の出血量が少ない
- 傷口が小さい(8~12mm幅で、最大6カ所)
- 術後の疼痛が少ない
機能温存が向上
- 鉗子の操作性がよく、細密な動きによって機能温存の可能性が期待できる
ロボット手術の実際の流れ
- 手術前日に入院します。
- 手術は全身麻酔で行います。
腹部に6か所、ロボットアームなどを通して操作するのための「穴」を開けます。穴は直径1-2cmほどの小さなものです。
ロボットアームを操作して前立腺を摘出して、さらに尿路の再建(吻合)を行います。 - 手術翌日には歩行が可能です。
ドレーン(手術の際、おなかから外へ留置したチューブ)は術後約3日で抜去します。手術に際して留置された尿道バルーンカテーテルは、膀胱と尿道が漏れなくつながっていれば抜去します。カテーテルが抜去された後、2日間程度で退院となります。 - 退院後は外来で定期的にPSA検査や画像検査を行います。
実績
2022年度 | 2023年度 | |
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手術 | 62 | 58 |
放射線手術 | 56 | 79 |