肝がん

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肝細胞がんとは

日本での2018年の肝がん罹患数は38,312人で、悪性腫瘍の中では第7位、2019年の死亡者数は25264人で第5位とされています。日本の肝がんの約90%以上は肝細胞がんであり、そのほとんどは慢性肝炎・肝硬変を背景として発症しています。
以前はHCV感染がおよそ7割と、肝細胞がんの成因の大部分を占めていましたが、近年はアルコール関連肝疾患・非アルコール性脂肪性肝疾患を背景とした非B非C型肝がんが増加しており、2015年には全体のおよそ30%以上を占めるようになりました。
肝細胞がんの治療については、手術の適応は40%前後と言われています。もともと肝細胞がんは肝硬変症(原因によらず)で認めやすいため肝予備能低下例が多いこと、また肝臓内で多発性に発がんしやすいためです。そのため、さまざまな内科的治療も肝細胞がんに対して行われています。
以下に、代表的な肝細胞がんの治療について、当院での取り組みもふまえて説明いたします。

肝細胞がんの手術について

肝細胞がんの手術は、がん細胞を摘出する目的で行われます。手術は、がんの進行度合いや患者さんの状態に応じて選択されます。主な手術方法には以下のものがあります。

①肝切除術

肝切除は、がんの部位を含む一部の肝臓組織を摘出する手術です。肝臓は生命を維持するために必要な臓器であり、その一部を切除することによってがんを治すことを目指すために、肝切除の適応は、がんの大きさや位置、周囲組織への転移の有無、患者さんの肝臓の予備力などによって決定されます。肝臓はその脈管支配から4つの区域と9つの亜区域に分割されますが、肝臓の手術は、その切除範囲から部分切除、亜区域切除、区域切除、2区域切除、3区域切除と切除範囲に応じて体に与える負担は大きくなっていきます。

肝切除の方法としては、従来は腹壁を大きく切開する開腹手術が行われていましたが、近年は腹腔鏡手術が導入されています。腹腔鏡手術は腹腔鏡(細い円柱状のカメラ)を通じてお腹の中を観察し、特殊な器具を挿入して手術を進めます。腹腔鏡下手術のメリットとしては小さな切開で手術が行われるため、痛みや出血が少なく手術後の回復が早いことや、傷跡が小さく美容的な問題が少ないことがありますが、デメリットとしては高度な技術が必要であり、手術操作の制限も多く、手術時間が長くなることが挙げられます。
当院では、2016年から積極的に腹腔鏡下肝切除術を導入しており、現在では肝切除術の7〜8割が腹腔鏡下で行われています。がんの状態、肝臓の状態および、患者さんの全身状態を考慮して開腹手術で行うか、腹腔鏡下手術で行うかを判断します。手術後の入院期間は開腹手術で平均7〜10日間、腹腔鏡手術で5日間です。

開腹手術の傷跡

腹腔鏡手術の傷跡

②肝移植

肝硬変(非代償期)に肝がんを合併している場合は肝切除ができません。がんの個数や大きさなどのいくつかの条件を満たす場合には肝移植が適応となります。この手術では、がんのある肝臓をドナーの健康な肝臓と交換します。ただし、肝移植はドナーの適切な臓器提供や移植手術の合併症など、複数の要素を考慮する必要があります。2021年の本邦の肝移植件数は421件で、脳死肝移植が60件、生体肝移植が361件でした。
肝臓移植は大阪大学医学部附属病院などの限られた専門施設で行われます。

③当院の手術実績

当院での肝切除件数

肝細胞がんの内科的治療について

①経皮的ラジオ波焼灼術
(radiofrequency ablation: RFA)

RFA針と呼ばれる穿刺針(電極)と、体に貼り付ける対極板とで回路を形成し、ここに電流発生装置により電流を流すことで、穿刺針先端部周辺の肝細胞がんを焼灼する治療法です。手術と比較して、傷口は数mm程度で済み、治療時間も1時間程度ですので、患者さんへの負担は軽くなります。また、全身麻酔は用いず、局所麻酔と軽い鎮静剤投与のみで治療を行いますので、治療後は数時間の安静のみで大丈夫です。術後はCTにて腫瘍がどれだけ焼灼されたのか確認を行いますが、効果不充分であれば後日追加治療を行うことも可能です。治療適応としては、「腫瘍の大きさおよび個数が3cm/3個以下、もしくは5cm以下で腫瘍がひとつのみ」がひとつの基準とされていますが、基準範囲外の場合でもRFAを行うことがあります。2021年に公表されたSURF試験では、初発時腫瘍の大きさおよび個数が3cm/3個以下であれば、RFAは手術と同等の無再発生存期間(RFA 2.76年 外科切除2.98年 p=0.793)を示しました。超音波装置にて観察しながら治療を行いますので、腫瘍が見えない場合や、消化管に接していて焼灼困難な場合は治療できない場合があります。当院ではそのような場合、超音波観察用の造影剤を投与して、リアルタイムに腫瘍を描出・確認しながら治療を行うことや、人為的に胸水や腹水などを作成し、腫瘍を焼灼することも行っております。また、上記のような穿刺困難な症例の場合は、CTを撮影し腫瘍を確認しながら行うCTガイド下RFAも、当院放射線科にて施行していただくことが可能です。

経皮的ラジオ波焼灼術

②肝動脈化学塞栓術(Transcatheter arterial chemoembolization: TACE)

X線透視を用いながら行う、カテーテル治療です。肝細胞がんはほぼ100%肝動脈から栄養を受けて増大していくのですが、本治療は、カテーテルと呼ばれる細い管をがんの栄養血管に進めて、抗がん剤を注入し、さらに塞栓物質で詰めて血流を遮断します。抗がん剤を高濃度に蓄積し、栄養血管を遮断する「薬漬け・兵糧攻め」の2つの効果で、がんを死滅・縮小させることを目的として行われます。腫瘍の性質により異なりますが、肝細胞がんの場合は約80%で腫瘍の増殖が一時的に停止あるいは病巣が縮小するといった効果が見られます(完全に消失する場合もあります)。塞栓物質としてはゼラチンスポンジを主に用いますが、肝予備能保護にも優れた薬剤溶出ビーズを用いることもあります。
まず、患者さんの大腿動脈(足の付け根に走行する太い動脈)よりカテーテルを刺入し、腹部大動脈から肝臓に向かう肝動脈を選択し、さらに細いカテーテルを用いて肝細胞がんを栄養している血管を選びます。そして、その栄養血管へ適切な量の抗がん剤を注入し、塞栓物資にて塞栓(詰める)します。肝外転移がなく手術やRFAなどの局所治療が適応とならない多発性肝細胞がんなどに対しては原則的にこの治療法が選択されます。適応範囲も広く、治療回数に制限も特にありません。この治療法も、RFAと同様に局所麻酔薬と軽い鎮静剤投与のみで行いますので、術後は3-4時間ベッド上にて安静していただいた後は、食事や歩行など行っていただいてもかまいません。
門脈と呼ばれる肝臓を栄養する血管が腫瘍によって詰まっていたり、肝機能が不良だったりする場合はこの治療によりさらに肝障害が悪化することがあります。その場合は、塞栓物質を用いずに抗がん剤を注入して治療を終了する肝動注療法なども行われます。

肝動脈塞栓術

③全身薬物療法

現在、肝細胞がんの治療において最も進歩が著しい分野で、さまざまな薬剤が肝細胞がんに対して適応となり、一定の治療効果を得られるようになってきています。
現在のところ、手術やRFAではコントロールできない、肝予備能が良好な症例(具体的にはChild-pugh grade A)に対して全身薬物療法が適応とされています。全身薬物療法としては2023年現在ではアテゾリズマブと呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤(人体の免疫ブレーキを抑制して腫瘍細胞に対する攻撃性を増強させる)とベバシズマブと呼ばれる血管内皮増殖因子抑制剤を併用する治療法が第一選択とされており、良好な治療成績が得られています。自己免疫疾患などを併存している場合など上記免疫チェックポイント阻害薬を使用できない場合、がん細胞に特異的に作用する分子標的薬(レンバチニブ、ネクサバールなど)も有効とされており、病態などに応じてさまざまな薬剤を使用することができます。これらの治療については、「腫瘍の進行を抑制する」ことが第一の目標であり、完全奏効や部分奏効は20%前後と低い割合です。しかし、ある程度奏効が得られた場合は、手術やRFAなどの治療につなげることができる、いわゆるconversion therapyも可能となることもあります。また近年は全身薬物療法と肝動脈塞栓術を併用することにより治療効果を期待できるという報告がなされており、今後もさまざまな治療方法が検討されています。
免疫チェックポイント阻害薬の重大な副作用として、全身の臓器の免疫反応が活性化した結果発症する免疫関連有害事象があり、注意が必要です。

肝細胞がんに対する
放射線治療について

放射線治療については、門脈への腫瘍浸潤例や切除を含めた局所治療不能例、他臓器への転移部分などを対象に施行されています。体幹部定位放射線治療などのX線治療と、陽子線・炭素線を使用した粒子線治療があります。いずれも正常肝への障害を極力抑えて、腫瘍・病巣への照射線量を高め、良好な治療効果を得ることができる治療です。粒子線治療は当院では施行できず、現時点では先進医療のため高額な治療費が必要となりますが、令和4年から4cm以上の肝細胞がんでは保険適応となりました。
以上のように、当院では肝細胞がんに対して、外科手術および、RFAと肝動脈塞栓術を軸とした内科的肝細胞がん治療を施行しています。肝細胞がんは非常に再発率が高いという性質を持つ反面、さまざまな治療を組み合わせることができるという特徴もあります。たとえば、手術施行後の再発症例であっても、肝動脈塞栓術を行ってからRFAをさらに追加して、より焼灼範囲を広げる工夫を行う治療などを追加することも可能です。
患者さん個人の全身状態と肝機能も考慮した上で、効果的な治療を選択し、取り組むことが当院での肝細胞がん治療の特色です。

参考文献

  • 第24回全国原発性肝がん追跡調査報告 日本肝がん研究会 2022
  • 肝がん白書 令和4年度 日本肝臓学会 2022
  • 肝癌診療ガイドライン 2021年版 日本肝臓学会