ロボット支援手術

  1. トップ
  2. がん医療について
  3. 肺がん
  4. ロボット支援手術

ダビンチXiサージカルシステム2台体制でのさらなる展開へ

当院では手術支援ロボット:ダビンチXiサージカルシステム(インテュイティブサージカル社、以下ダビンチと表記します)を2016年に導入しました。

泌尿器科、呼吸器外科、消化器外科(胃がん・大腸がん)、産婦人科と多くの診療科で運用し、さらに2022年9月に2台目のダビンチを導入して、積極的に手術の低侵襲化に努めてきました。
あらためて呼吸器外科での運用実績とその意義などについて、ご紹介します。

2016年、2022年に導入した2台のダビンチXiサージカルシステム
(インテュイティブサージカル社)

肺がん診療の個別化医療とそれを支えるチーム医療

胸部異常陰影の精査などでご紹介いただいた患者さんは、まず呼吸器内科で診察します。
胸部CT検査など画像診断で肺がんを疑われた場合、気管支鏡指導医による気管支検査や、IVR専門医によるCTガイド下生検などの病理学的診断を経て、呼吸器内科、呼吸器外科、放射線治療科、病理診断科との合同胸部腫瘍カンファレンスにおいて、臨床病期と患者さんに示す治療方針を決定します。

外科治療、化学療法、放射線治療、またはそれらをどう組み合わせるかなど、治療方針の決定に際しては予想される結果を十分に吟味し、それぞれの患者さんに適した「個別化医療」を提供するよう心がけています。

肺がんの治療選択は単に病期だけでは決定しづらい場合もあります。
例えば、併存症のある患者さんに対しては「総合医療センター」としての特性を活かして、循環器内科をはじめとする各臓器のスペシャリストと病態について深く検討し十分な治療準備を行います。

手術に際しては術中術後管理について麻酔科・集中治療科と連携をとりながら、安全かつ積極的な外科治療を提供しています。
また、医師・看護師のみならず、薬剤師、臨床工学技師、リハビリテーション技術科(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、事務系専門職まで職種の枠を越えた「チーム医療」のもとに、一人ひとりの患者さんに適した医療を実践しています。

進行肺がんであっても「安全に」
ダビンチ呼吸器外科手術を行います

当科の手術件数は、2013年以前は50件程度でしたが、市立堺病院から堺市立総合医療センターに移転後の2017年には228件まで増加しました。
さらなる質的向上を目指して、2018年の肺がんに対するロボット支援手術の保険収載を機に、ダビンチ呼吸器外科手術を開始しました。

肺がんに対するダビンチ呼吸器外科手術の実際

ダビンチ呼吸器外科手術の実際の手術室の様子

手術操作を行う術者は数m離れた場所にあるダビンチのサージャンコンソール(ここが「操縦席」になります)に着席して手術操作を行います。
またダビンチのペイシェントカート(これが患者さんに触れて手術操作を行う「ロボット」部分になります)のそばの患者さんの側に、助手の医師と看護師が立ちます。
これらのシステムは全て光通信ケーブルで接続されています。

左:大きく切開しない 計5カ所の「キーホール」
中:ロボット用ポートと鉗子の先端構造
右:ロボットアームに装着された鉗子

image

全身麻酔導入後、背中から側胸部に計5カ所の小さな穴を開けて、ポートを挿入します。ロボット用ポートが4カ所、助手用ポートが1カ所で、いずれの穴も約1cm前後であり、他に胸壁を切開することはありません。
これがダビンチの手術が「キーホール手術」と言われる所以です。

患者さんにロボットをドッキング:
画面を見ながら安全に胸腔内に鉗子を挿入

次にダビンチのペイシェントカートを手術台に近づけます。
4本のロボットアームを前述のロボット用ポートと接続して、患者さんと「ロボット」をドッキングさせます。その後3本のロボット用鉗子と内視鏡をロボットアームに各々装着して、画像を見ながら安全を確認し胸腔内に鉗子を挿入します。

術者は、両手をハンドコントロールに、
両足を7つのペダルにおいて手術を行います

続いてダビンチのサージャンコンソールに術者が着席し、コンソール内の高精細3Dモニターで体の中を見ながら、左手右手のハンドコントロールと7つのペダルで3本の鉗子と内視鏡を自在に操作して、手術を施行します。

高精細3D視野と屈曲する鉗子で精緻な手術操作

ダビンチ呼吸器外科手術では、術者が操作する高精細3D立体視野を見ながら、屈曲する3本の鉗子を自在に操作することにより、真に最適な手術操作を行うことができます。
切除した肺葉は袋に入れ、3cmほど切開した助手孔から体外に摘出して手術は終了です。手術時間は多くが約1.5~3時間程度で終了します。

6年間で500件以上のダビンチ呼吸器外科手術を実施しました

左:ダビンチ呼吸器外科手術指導病院(インテュイティブサージカル社指定メンター)
右:2022年5月18日 ダビンチ呼吸器外科手術300例達成

当科でのダビンチ呼吸器外科手術の第1例目は2018年3月に縦隔腫瘍に対して実施しました。
以降毎週1~3件程度実施しており、2024年までの6年間に500名以上の患者さんにダビンチ呼吸器外科手術を受けていただきました。

今までにいくつかの困難はありましたが、全例で大きな事故はなく安全に実施することができており、当院はインテュイティブサージカル社よりメンターサイト(呼吸器外科領域ロボット支援手術指導病院)として指定されております。

当院では肺がん外科治療の標準アプローチを、基本的に全てダビンチ手術の適応としております。
ただし、リンパ節転移やがんの血管気管支浸潤などにより、そのままでは完全切除が困難な場合もあります。
そのような場合には、術前に放射線化学療法を先行させ、十分に腫瘍を小さくさせてからダビンチ手術を実施しています。

世界だけでなく国内で広がるダビンチ呼吸器外科手術

世界における実績

インテュイティブサージカル社提供

1999年に始まったダビンチ手術は、2014年に現行モデルのda Vinci Xiが北米で登場し、翌年より日本国内で使用が開始されました。
世界では現在6700台以上が稼働しており、数多くの実績を上げてきました。

国内でのダビンチ呼吸器外科手術 Japan Yearly Procedure Growth : Lobectomy

インテュイティブサージカル社提供

国内でのダビンチ呼吸器外科手術は、前述したように2018年の肺がん・縦隔腫瘍に対するロボット支援手術の保険収載を機に年ごとにその実施件数は倍増し、直近では年8000件程度と推定されています。

400件以上のダビンチ呼吸器外科手術を経験してわかったこと

このようにダビンチ手術の実施件数は確かに急増しています。
ダビンチ手術のメリットとデメリットについて、当院での約5年間400件の経験から考えてみたいと思います。

メリット:精細な3D立体視野と屈曲する鉗子による正確な手術操作が可能

ダビンチ手術の最大のメリットは、術者自身が操作する精細な3D立体視野で、屈曲する鉗子により最適な手術操作が可能となることです。
つまり、見るべきものを正しく評価できるということです。
このため術者にとってよりよい判断と操作が可能となり、手術の精密性向上という患者さんへのメリットにつながると考えています。

デメリット:「人間の手にはかなわない」こともある

ではデメリットはどうでしょうか。
呼吸器外科手術の最大の危険は肺動脈からの出血です。
この際には直ちに胸腔内に手を入れなければならないのですが、ダビンチ手術は開胸しないキーホール手術であるため、このような非常時対応が遅れることが最大のデメリットです。
そのため当院では、このような出血のリスクがある操作が必要と判断した場合、ダビンチ手術を中止し小さく開胸をして安全性を確保するようにしています。
このような術中の変更が生じたのは過去500例のうち約7.9%で、無理をしないことで大きな出血事故を回避できました。

4本のロボットアームも、ニンゲンの10本の指にはかなわない場合もある、というのが500例以上の経験から得た実感です。

ほとんどの場合ダビンチ手術のメリットを活かしてより精密な手術ができます。
しかし逆に活かせない領域もあるので、その境界を過去の実績からしっかり見極めて、安全性の確保とメリットの最大化を心がけております。

今まで与えていただいた5年間の大きな経験を活かし、今後もしっかり貢献していきたいと考えております。