肺がん

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肺がんとは

空気の通り道である「気管支」やガス交換の場である「肺胞」の細胞が、何らかの原因でがん化したものです。
肺がんは喫煙との関連が大きく、タバコを吸う人の肺がんになるリスクはタバコを吸わない人に比べて男性で4.4倍、女性で2.8倍と高くなります。

タバコ以外の要因として、職業や環境による要因〔石綿(アスベスト)〕や、合併している疾患(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎など)、肺がんの家族歴や既往歴などがリスクを高めると考えられています。
肺がんの治療は、組織診断と病期(ステージ)、身体状況、患者さんご自身の希望で決まります。
外科治療、放射線治療、薬物療法の中から患者さんに適した治療を選択していきます。

肺がんの診断

肺がんの治療

肺がんの治療は、病理検査でのがんの組織型が小細胞がんか、それ以外の非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がんなど)で大きく異なります。
前者は進展が早いのですが、比較的がん薬物療法と放射線治療が一定以上の効果があるため、分けて取り扱うことが一般的です。以降、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けて治療法を説明します。

非小細胞肺がんの治療

非小細胞肺がんの治療には、外科治療、放射線療法、がん薬物療法、緩和ケアがあります。

  • がんの進み具合:臨床病期(ステージ)

    肺がん取扱い規約第8版(2017年1月、日本肺癌学会)による肺がんの病期(ステージ)診断(非小細胞肺がん、小細胞肺がん共通)

    肺がんの臨床病期(ステージ)

  • 想定される治療の目標
  • 患者さんの状態:パフォーマンスステータス(PS)、基礎疾患(持病)、年齢など
表:パフォーマンスステータス(PS)
スコア 定義
0 全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限なく行える。
1 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業
2 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない。
日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3 限られた自分の身の回りのことしかできない。
日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4 全く動けない。自分の身の回りのことは全くできない。完全にベッドか椅子で過ごす。
  • 出展:Common Toxicity Criteria. Version2.0 Publish Data April30. 1999
    (JCOG ウェブサイト. http://www.jcog.jp/より日本語訳を引用

これらをもとに患者さんに適した治療法を提案します。
そのうえで患者さんにご自身の治療方法を選択していただきます。

臨床病期Ⅰ期・Ⅱ期の治療

治療前の検査での病期(ステージ)を特に臨床病期といいます。

臨床病期Ⅰ期と診断された場合、手術(外科治療)が勧められます。
ただし、患者さんの状態が手術に耐えられないと判断された場合や患者さんの希望に基づき、放射線療法が実施されることもあります。
いずれの場合も、治療の目標は、がんの治癒を目指すことです。
また、手術で切除された病変を詳しく調べ、外科治療で完全に病変が取り除かれていてもがん薬物療法を追加で実施することが勧められることもあります(術後補助化学療法)。

右下葉原発の肺がんの場合
臨床病期Ⅲ期の治療

少し離れたリンパ節まで転移が広がった状態など

治療前の検査で臨床病期Ⅲ期と診断された場合、標準治療として提案される治療は、多くの患者さんでは放射線療法とがん薬物療法を組み合わせる化学放射線療法です。
一部の患者さんでは、病変の分布などに基づき、外科治療が勧められることがあります。

右下葉原発の肺がんの場合
臨床病期Ⅳ期の治療

離れた臓器まで転移がある場合など

治療前の検査で臨床病期Ⅳ期と診断された場合、標準治療として提案される治療は薬物療法です。
臨床病期Ⅰ期からⅢ期の患者さんでも、最初に受けた治療の後、病気が再発した場合には、Ⅳ期と同様の考え方で治療を行うことが一般的です。
さまざまな理由で薬物療法により病気を制御して対処することが難しい場合も、緩和ケアはすべての患者さんに勧められています。

右下葉原発の肺がんの場合 脳転移 肝転移

治療の目標は、がんと診断されてもできるだけ長く元気に過ごし、がんに伴う症状をやわらげることであり、完治は難しいことが一般に知られています。

緩和ケアセンター

小細胞肺がんの治療

小細胞肺がんの治療には、外科治療、がん薬物療法、放射線治療、緩和ケアがあります。
医師は、

  • がんの進み具合(限局型、進展型)
  • 想定される治療の目標
  • 患者さんの状態:PS(パフォーマンスステータス)、基礎疾患(持病)、年齢など

に基づいて患者さんに適した治療法を提案します。
そのうえで患者さんにご自身の治療方法を選択していただきます。

限局型小細胞肺がんの治療

治療前の検査でがんの範囲が、片側の肺に限られ、リンパ節転移が反対側の縦隔リンパ節や鎖骨上窩リンパ節に限られているなどの条件を満たした場合、「限局型小細胞肺がん」と呼ばれます。
臨床病期では、Ⅰ期からⅢ期がおおむね限局型と一致しています。
限局型小細胞肺がんと診断された場合、標準治療として提案される治療は、外科治療も選択されますが、ほとんどの場合がん薬物療法と放射線治療を組み合わせた治療法です。
いずれの場合も、治療の目標はがんの完治を目指すことです。

進展型小細胞肺がんの治療

治療前の検査で病変の範囲が、限局型の範囲を越えて広がっていると診断された場合、「進展型小細胞肺がん」と呼ばれます。
標準治療として提案される治療はがん薬物療法と緩和ケアです。
治療の目標は、がんと診断されてもできるだけ長く元気に過ごし、がんに伴う症状をやわらげることであり、完治は難しいことが一般に知られています。

手術(Ⅰ期、Ⅱ期と一部のⅢ期)

肺は、左右の胸腔にひとつずつ入っており、右は上・中・下の3肺葉、左は上・下の2肺葉に分かれています。さらに、肺葉は肺区域という小さな単位に分かれ、右肺は10区域、左肺は8区域に分かれます。
肺がんの手術ではがんを発生している区域または肺葉それ以上を切除し、あわせてがんの転移の可能性が高いリンパ節も切除することが標準的です(標準手術と呼ばれます)。
体力が落ちている場合などでは、肺を切除する量を減らして部分切除とする場合や、リンパ節切除範囲を減らす場合もあります(縮小手術と呼ばれます)。

肺葉と肺区域

肺がん手術の術式ごとの切除量の差

切除する範囲は、必ずがんが残らないようにする必要があります(完全切除)。
そして、最終的にはがんの病状と身体的負担とのバランスで決定されます。
ですから患者さんによっては、がんが残らないように切除すると切除量が多すぎて、術後の日常生活が維持できないことが予想できる場合には、手術を中止する場合もあります。
このような場合は、中止した手術に続いて早期にがん薬物療法や放射線療法が検討されます。

右下葉原発の肺がんの場合

手術は全身麻酔で行われます。

従来は皮膚を大きく切開し、肋骨の間を開いて行うものが主流でしたが、最近は、小さな切開孔からビデオカメラを挿入して行う胸腔鏡手術が主体になってきています。

ロボット支援手術の皮膚切開とイメージ

5つの穴のみで手術操作を行います。
当院では特にロボットを用いた胸腔鏡手術を導入し多くの患者さんの手術を行っております。
手術は呼吸器外科専門医のいる施設で受けることが望ましいでしょう。

ロボット支援手術

がん薬物療法(Ⅲ期、Ⅳ期)

臨床病期Ⅲ期の非小細胞肺がんの患者さんに対しては、化学放射線療法が選択されます。
放射線療法で局所(原発巣と転移した周囲のリンパ節)をしっかりと攻撃し、かつ血管やリンパ管の中に浮遊するがん細胞やきわめて小さくて画像上見えない転移病変を抗がん剤(細胞傷害性抗がん薬)で攻撃することで、遠隔転移を防ぐことを目指します。
放射線療法と併用する化学療法として、シスプラチン+ビノレルビン療法、カルボプラチン+パクリタキセル療法などが行われます。
前者は4週ごとに2サイクル行われます。後者は週に1回、全部で6回行われます。
抗がん剤の副作用で好中球や血小板の数が低下している場合は、化学療法を延期し休むことがあります。
化学放射線療法後に、免疫チェックポイント阻害薬のひとつであるデュルバルマブを追加すると、生存期間が延長することが臨床試験で示され、2018年にデュルバルマブが承認されました。
放射線肺臓炎が起こっていなければ、化学放射線療法終了後6週以内を目安にデュルバルマブによる治療を開始し、2週間ごと、1年間行うことが勧められています。

臨床病期Ⅳ期の肺がんとは、がんが肺から離れたほかの臓器にまで転移した状態です。
がん細胞が血液を介してたどりついた臓器で増殖することにより起こります。
まだ目に見えるような大きさには増大していない、小さな転移も存在すると予想されます。
また、肺や心臓の周りにがん細胞が広がり、そのために水がたまっている場合も臨床病期Ⅳ期に含まれます。
このような状態で発見された患者さんでは、すべてのがん病変を手術で取り除くことは困難です。
また放射線療法も、全身ないしは片肺全体に放射線をあてるわけにはいかないので選択できず、完全に肺がんを治してしまうのはきわめて難しい状態といえます。
Ⅳ期の患者さんの治療の目標は、がんの進行を抑えて、がんによって引き起こされるさまざまな症状を予防し、あるいはやわらげ、元気に過ごせる時間を長く確保することです。
よって治療としては、薬が全身にいきわたる注射(点滴)や内服薬で治療するがん治療薬での治療が第一選択になります。
近年の薬剤の進化により、がん薬物療法のみで非常に長くがんの進行を抑えられる場合も増えてきました。
がん病変をコントロールするためのがん治療薬や、症状そのものに対処する緩和ケアによって、これまでどおりの日常生活が1日でも長く続くよう、希望をもって治療に臨んでいただければと思います。
臨床病期Ⅳ期の非小細胞肺がんの患者さんに対して使用されるがん治療薬には、抗がん剤(細胞傷害性抗がん薬)、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。
それぞれの患者さんに適した治療を選択するためには、がん細胞もしくは血液中のがん細胞由来の遺伝子を用いた遺伝子検査やがん組織を用いたPD-L1タンパクの発現状況の確認を行い検討します。

分子標的治療薬

治療薬の選択において、最も重要な情報は「ドライバー遺伝子の変異や転座の有無」です。
がん細胞もしくは血液中のがん細胞由来の遺伝子を用いた遺伝子検査でEGFRやALKなどの遺伝子に変異や転座が確認された際には、積極的に分子標的治療薬(オシメルチニブやアレクチニブなど)を用いた治療が行われます。
薬剤は年齢、体力なども考慮して選択されます。

免疫チェックポイント阻害薬(+細胞傷害性抗がん薬)

非小細胞肺がんと診断された時点で、ドライバー遺伝子の変異や転座とともにがん細胞表面のPD-L1タンパクの発現状況が確認されます。
ドライバー遺伝子の変異や転座が確認されず、かつPD-L1タンパクの発現状況が高い場合には、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待されます。
そのため、免疫チェックポイント阻害薬単独もしくは抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が選択されます。
ドライバー遺伝子の変異や転座が確認されず、PD-L1タンパクの発現がない、もしくは発現が低い場合には、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が選択されます。

治療薬の選択について

年齢やパフォーマンスステータス(PS)などをもとに、担当医がそれぞれの患者さんに適した治療を選択します。

治療成績

手術件数

2023年 2022年 2021年 2020年 2019年 2018年 2017年 2016年 2015年 2014年 2013年 2012年
肺腫瘍 計 113 91 82 87 98 87 97 81 61 50 47 31
肺がん 92 81 70 74 84 71 80 67 45 42 40 25
転移性腫瘍 14 7 11 12 12 13 6 12 14 7 5 6
良性肺腫瘍 0 2 1 0 1 0 3 1 0 0 0 0
7 1 0 1 1 3 8 1 2 1 2 0
縦隔腫瘍 計 20 9 12 11 14 11 8 12 3 2 2 0
胸腺腫 7 5 5 2 3 5 1 4 2 0 1 0
胸腺がん 0 0 0 1 0 1 2 3 0 0 0 0
13 4 7 8 11 5 5 5 1 2 1 0
腫瘍手術件数 計 133 100 94 98 112 98 105 93 64 52 49 31
呼吸器外科手術 計 212 161 150 142 186 174 227 216 131 130 108 56
ダビンチ手術 計 104 87 75 79 72 42 - - - - - -
肺悪性腫瘍 85 79 64 68 59 34 - - - - - -
縦隔腫瘍 19 8 11 11 13 8 - - - - - -

放射線治療件数

2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度 2023年度
肺・気管・縦隔 113 133 116 129 168 136