Sakai Medical Stories Vol.4 生活に透析を合わせる—患者さんの「やりたいこと」を支えるSDM(共有意思決定)の実践

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Vol.4 生活に透析を合わせる。患者さんの「やりたいこと」を支えるSDM(共有意思決定)の実践
-SDM(共有意思決定)の概念と腎臓領域における重要性-

「透析が始まると、これまでの生活ができなくなる」——。そんな不安を抱える患者さんは少なくありません。腎臓病の治療、特に透析導入においては、医学的な判断だけでなく「その人がどう生きたいか」を尊重する「SDM(共有意思決定)」というアプローチが重要視されています。今回は、患者さんの本音を引き出し、生活と治療を両立させるための対話のあり方について腎臓内科 岩田 幸真医師にお伺いしました。
Q1.そもそもSDM(共有意思決定)とは何ですか?
患者さんが「やりたいこと」と、医療者が提供できる医療を、対話を通じて一緒に組み合わせていく意思決定の方法です。
Q2.SDMはいつ頃から言われ始めた概念ですか?
歴史はかなり古く、医療全般で使われ始めた言葉ですが、特に腎臓領域は選択肢が多岐にわたるため、SDMが非常に進んでいる分野だと言えます。
日本では2000年代に入ってから、インフォームド・コンセント(説明と同意)の「一歩先」の概念として注目されるようになりました。特に慢性疾患やがん治療など、「正解が一つではない」選択肢が増えたことで、その重要性が急速に認知されました。
Q3.腎代替療法の説明では、どのようにSDMが関わりますか?
血液透析・腹膜透析・腎移植などの選択肢を提示する際、医学的な観点だけで決めるのではなく、患者さんの生活背景や人生の目標を踏まえて、患者さんの希望を叶えるためにはどの治療が最適かを対話しながら一緒に考えていきます。
透析治療が目的ではなく「透析治療をしながらどうするか?」ここに焦点を当てています。
Q4.治療の選択肢を提示する際、医学的側面以外で注視していることはありますか?
医学的に正しいことを一方的に押し付けるのが仕事ではありません。
患者さんがやりたいことをサポートし、やりたくないことを避けるために伴走するのが私たちの役割です。
「患者さん」として見るのではなく「一人の人としてどういう方なのか」を把握することです。
病気をどう治すかと同じくらい、その人が人として今後どう生きていきたいのかを大切にしています。
Q5.透析が必要になる局面で、患者さんはどのような不安を抱えやすいですか?
「透析をしなければいけない」「透析が始まったら何もできない」という、先行きが見えず不安なイメージを持ってしまいがちです。
Q6.その先入観を外すために、どのような工夫をしていますか?
「何が一番したいか」と「何をしたくないか」の2つを軸に確認します。
その上で、患者さんが許容できる治療法を一緒に探っていくようにしています。
Q7.意思決定で迷っている患者さんには、どのような言葉をかけますか?
「透析をしながら何がしたいか」を聞いた上で、「もし透析が必要ない体だとしたら、何がしたいですか?」という仮定の質問をします。
そこに出てくる答えこそが、その方の「本音(本質的な希望)」だからです。
Q8.治療提案において大切にしているモットーはありますか?
「透析に生活を合わせるのではなく、生活に透析を合わせる」ことです。
そのために、まずはどういう生活をしてきて、今どのように生活していて今後どうしていきたいのかを徹底的に伺います。
Q9.多職種で意思決定を支えるチームとしての強みは何ですか?
医師、看護師、臨床工学技士など、各職種に得意・不得意があります。
お互いにサポートし合い、それぞれの専門的な視点を持ち寄ることで、より厚みのある支援が可能になります。
Q10.一度決めた治療法を、後から変更することは可能ですか?
もちろんです。
説明の際も「どの治療にしますか」ではなく「まずどの治療から始めますか」と伝えるようにしています。
実際に治療開始後に変更される方もいらっしゃいます。
Q11.特定の治療法をおすすめすることはありますか?
あります。
病状や生活環境を総合的に見て、「この方の生活なら、こちらの治療の方がより希望に沿えるのでは」と提案させていただくことも大切だと考えています。
Q12.「医療者と相談の上選択した」という自覚は、その後の生活にどう影響しますか?
医療者と相談し納得の上選択した治療であれば、その後の生活に対しても前向きになれますし、将来への希望も持ちやすくなると実感しています。
Q13.実際に関わった患者さんの表情はいかがですか?
やっぱり初めは治療への不安感から、表情が暗い方が多いです。
しかし対話を通じて共に選択肢を考え、出した答えに納得することにより表情が明るくなって帰られる方が多いです。
Q14.最後に、先の生活が不安で怖いと感じている方へメッセージをお願いします。

「病院に勧められたから」ではなく「医療者と相談して選択した」という自覚は、その後の治療生活を前向きなものに変えてくれます。
腎臓の病気と言われ、先の見えない怖さを感じている方もいらっしゃるでしょう。
まずは、あなたの「本当にしたいことを」を聞かせてください。
それを実現するために最適な治療法を、私たちと一緒に考えていきましょう。
Beyond the White Coat
― 白衣の向こう側 ―
ここからは、医療や仕事の話から少し離れて、休日の過ごし方や好きなものなど、日常のひとコマから見えてくる医師の人となりや、ちょっと意外な一面をご紹介します。

*趣味
子どもと遊ぶことです。
3人の小学生以下の子どもがいます。
*好きな食べ物
お魚です。
特に生魚が好きです。
*おすすめしたい飲食店
小さい子どもがいるため、家族で利用しやすい回転寿司によく行きます。
スシローとくら寿司の2択です。